従業員が産休を取得する際は、取得前から取得後まで会社が対応しなければならない手続きや配慮すべき事がたくさんあります。そこでこの記事では「産休の際に会社が行わなければならない手続き」や「会社がすべき対応」について解説していきます。
【この記事でわかること】
・産休手続きのスケジュール
・産休に伴う手続きの種類について
産休の期間・大まかなスケジュール
産休の期間と大まかなスケジュールを説明します。
産休の期間は?
産前休業の期間は出産予定日から6週間(42日)前、産後休業の期間は出産翌日から8週間(56日)です。産前休業は従業員が会社に申請することで取得できますが、産後休業は申請の有無に関わらず最低6週間は強制的に休業させなくてはなりません。
出産予定日よりも早く産まれた場合は、産前休業はそのまま前倒しになり、出産日の翌日から産後休業がスタートとなります。出産予定日よりも遅く産まれた場合には、予定日から実際の出産日までの期間も産前休業となるため、実際の申請期間よりも長くなります。
産休前後の大まかなスケジュール
以下が産前産後のスケジュールになります。
妊娠報告があってから育休に入る前までのスケジュールはおおむね以下の通りです。
- 妊娠の報告
- 妊娠・出産・育児に関して利用可能な制度や給付金、保険料免除などについて説明
- 妊娠中の働き方について確認
- 育休の申し出を受ける
- 社会保険料免除の申請(産前産後休業取得者申出書を年金事務所に提出)
- 出産の報告
- 予定日と出産日がずれた場合、産前産後休業取得者変更(終了)届を年金事務所に提出
- 扶養追加の申請や出産手当金の申請など
妊娠中の働き方については本人の希望を聞く必要があります。また、里帰り出産する従業員に対しては、予め書類の届け先や連絡先、給与振込先を確認しておくと滞りなく手続きが進められます。
産休前後の手続き・対応
産休の申し出
従業員から申し出があった場合は、まず「産前・産後休暇願届」を記入してもらいます。
妊娠中の従業員への配慮
妊娠中の従業員が安心して働けるよう、必要な場合は負担の少ない業務への変更や勤務時間の変更などの配慮が必要ですが、本人からの申し出がないにも関わらず、時短勤務や通勤緩和などを強要することは法律違反になる可能性があります。男女雇用機会均等法では「妊娠・出産を理由に不利益な取扱いをしてはならない」と定められています。
育休の申し出+取り扱いの通知
会社は育休開始の1カ月前までに「育児休業申出書」を従業員から受け取り、内容を確認したら速やかに「育児休業取扱通知書」を従業員に交付しなければなりません。「育児休業取扱通知書」には、休業開始予定日や終了予定日などの明示が必要です。
育休のスケジュールは以下になります。
産休および育休の詳細については下記の【社労士監修】産休と育児休業はいつから取得できる?でご確認ください。
住民税の徴収方法の確認
従業員が休業に入る前に住民税の徴収方法を說明して決めておく必要があります。
徴収方法は以下の3パターンがあります。
- 会社側が立て替え、復職後に徴収する
- 休業開始前の給与から一括徴収する
- 普通徴収に切り替える
社会保険料免除の申請
産休中は社会保険料(健康保険、厚生年金)が免除されます。免除期間は産休開始月から終了予定日の翌日の月の前月(産休終了日が月の末日の場合は産休終了月)までで、出産予定日以前42日と産後56日のうち労務に従事しなかった期間が対象です。
申請は産休中に行わなければなりません。なお、免除期間については社会保険料を支払ったものとみなして将来の年金額が計算されます。
扶養追加の申請
会社の健康保険に加入している従業員には、出産後に出生届を提出して戸籍を取得してもらった上で、会社を通じて扶養追加の申請を行います。健康保険証は発行に約2~3週間かかるため事実発生から5日以内に届出を提出しましょう。
出産育児一時金の申請
出産育児一時金とは、生まれた子1人につき42万円(令和5年4月1日からは50万円)が健康保険から支給される制度です(ただし産科医療補償制度の対象外となる出産では40万8千円(令和5年4月1日からは48万8千円))。出産費用が支給額を上回ったときは、超えた額を医療機関に支払わなければなりませんが、下回った場合は差額を請求できます。
申請期限は産休開始の日から2年です。
出産育児一時金の法改正情報については以下の【社労士監修】出産育児一時金50万円はいつから?をご参照ください。
従業員が退職する場合は?
出産した従業員が退職する場合、資格喪失日の前日(退職日など)までに被保険者期間が継続して1年以上あり、出産日が資格喪失日から6カ月以内の場合は出産育児一時金が支給されます。
出産手当金の申請
出産手当金は、出産のため仕事を休んでいた期間の生活費の一部として、賃金の3分の2程度の額が健康保険から支給される制度です。手続きは本人か会社側が行います。休業中に申請書を記入してもらうことになるため、従業員が入院する前に申請書を渡しておきましょう。
出産予定日以前42日と産後56日のうち、会社を休み給与の支払いがなかった期間が対象で、全期間まとめて申請することも、産前・産後に分けて申請することも可能です。申請期限は産休開始の日から2年です。
従業員が退職する場合は?
出産した従業員が退職する場合、資格喪失日の前日(退職日など)までに被保険者期間が継続して1年以上あり、資格喪失日の前日に、現に出産手当金の支給を受けているか、受けられる状態(出産日以前42日目が加入期間であり、かつ退職日は出勤していない)であれば、資格喪失後も所定の期間の範囲内で支給を受けられます。
退職後ももらえる出産手当金および出産育児一時金については以下の【社労士監修】退職後に出産手当金をもらうことができる?退職後の継続給付徹底理解!の記事にまとめています。
標準報酬月額の改定の申請
産休終了後に報酬が下がった場合、申請書を提出することで、産休終了後の3カ⽉間の報酬額をもとに、新しい標準報酬⽉額を決定し、その翌⽉から適用できます。詳しい条件については以下の日本年金機構のホームページをご確認ください。
<産前産後休業終了時報酬月額変更届の提出>
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/sankyu-menjo/20140327-01.html
(参照:日本年金機構HP)
養育期間の標準報酬月額特例の申請
年金受給額は標準報酬月額をもとに算出されています。養育期間の標準報酬月額特例とは、出産後、短時間勤務をして標準報酬月額が下がったような場合に、将来受け取る年金額が減らないように以前の標準報酬月額を「みなし報酬月額」として計算する制度です。
対象者は厚生年金保険の加入者のみで、措置は3歳未満の子供を養育している期間に適用されます。
<養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置>
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/20150120.html
(参照:日本年金機構HP)
まとめ
妊娠・出産後の働き方は人それぞれ
近年、出産後も働き続ける女性が増えてきています。できるだけ早く復帰したいと考える人もいれば、しばらくは育児に専念したいと考える人もいます。出産後の働き方については従業員の希望を聞いて配慮し、安心して産休育休を取得できるような環境を整えることが、従業員のモチベーション維持や向上にも繋がっていくのではないかと思います。
【この記事を書いた人:渡辺】
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